沈黙のオペラ/鈴木カルラ
それでも、振ることを止めない
彼は、彼の最終楽章に向けてタクトを振る
いつ訪れるかも判らぬ最終楽章
その終わりのために、タクトを振る
最後の一音のために
それは、終わらないオペラ
沈黙のオペラに最終楽章はあるのだろうか
その時がきたならば
散らばってしまった愛情の粒が
それが、タクトにみちびかれて全てを包み込むのだろうか
そうだ、それは
耳にとどく曲として、耳にとどく歌声として
立ちあがる出演者たちの姿として
それが、沈黙の終わりの合図として、出現するはず
その時のために、彼は、優しく語りかける、タクトをとおして
最後の一音のために希望を込めて
タクトを振りつづける
沈黙を破る一音を求めて
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