【小説】322回目のセックス/なかがわひろか
 
ができなかった。
 彼女は優しく僕を抱きしめて、その後はお互いの感想を言い合ったりしながらベッドの中で過ごしていた。だけどどうしても321回目のセックスのことを思い出さずにはいられなかった。
 彼女は朝方になって用があるからと言って帰っていった。特に怒っているようでもなかったし、それはごく普通の恋人同士のつかの間の別れの様なワンシーンだった。僕も彼女も笑っていたし、きっと近いうちにまた会うだろうという余韻は残っていた。
 だけど、部屋に一人になったとき、僕の頭は321回目のセックスのことでいっぱいになってしまった。
 いけなかったのは彼女が悪かったわけでもないし、何度も言うけど、僕
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