*浮き島/チグトセ
て、その時僕がどんな場面にいたかを記憶しておくことに重きを置いていなかったことが、今更になっての重大問題だった。僕は一度深く絶望し淵を見てから浮上し思い出した。僕は神社の境内にいた。ひどく蒸し暑い夏だ。陽炎が波打って、コンクリートが気持ち悪く軟化して、耳たぶに、小さな虫がとまっている。ひどく可笑しくて滑稽な虫だ。真っ黒な影をそのまま体に引きずって小さな世界に魂を入れ込んで、彼はより宇宙に近く、自我を持つほど単に愚かにかけはなれていった人間という生態を不思議そうに眺めている。何より彼は悟っている。そうでもなければ死が怖いからだ。僕は虫を殺し、どういう手段だったかは忘れたが、とにかく殺し、目にあまりよ
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