我が家のピエロ/加藤泰清
 
のがわかるほどの大きさだったので、ぼくにはすべて聞こえていた。そして最後に吐いた呪いのことばも聞こえた。(だからきみにはどこかにいっていてほしい。そうでないと私は鼻息に酔ったままで気分が悪い。きこえているだろう?)彼はそれからもなにごともなく卓上でたたずみ、時にポケットからタバコをとりだして吸ってみたり、とても控え目な発生練習をしてみたり、反対のポケットからお菓子をとりだしてポリポリ食べていたりしている。もうすでに、ここにピエロはいない。いや、初めからいなかったのだろう、とぼくはそう感じた。ぼくが今日は冷えますねと言っても彼はただたたずみながら、そうですねとあたりさわりない答えを返す。喉が渇く、と
[次のページ]
戻る   Point(3)