チェス:初期設定の話/渕崎。
 
庭でも大なり小なり常々問題はあってな。それを表に出すか出さないかだけの違いだ。違うな、表に出るか出ないか、か?」
「それはわかりませんが」
「昔な、今はもう付き合いの切れた当時の友人が言ったのだよ『あんたは恵まれてるくせに』って。滑稽だと思ったね」
「それはまた、馬鹿げた台詞ですね」
「だろう。彼女とは仲がよかったつもりだったが、わたしはわたしの家庭について喋ったのは表面上のみの話で深いところなど一言だって漏らしていないのに、彼女はわたしをそう表したよ」

わたしのどこがそんなに彼女の気に障ったのだろうな、と彼女はケタケタと笑って黒のポーンを掌中で弄ぶ。少しばかり寂しそうに。
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