湖畔の洋館/はじめ
 
霧とそれに溶ける夕闇の中へ身を捻り込ませて行った
 この森の木々の名前を一本一本言い当てられる人間など僕は知らない それぐらい多種多様な木々や草花が生い茂っていた 乳白色の霧は目立たなくなり正真正銘の闇がこの森を包んでいた 僕は鞄からランプを取り出して右手で持って手探り状態で歩いていた ちゃんとした道はあるのだが 少しでも中心から逸れてしまうとボッティチェッリの『春』の右側の精霊のように闇に連れ去られてしまいそうだったので 慎重に歩いていた やがて道が開けて 幻想的な霧の湖畔に浮かぶ洋館が灯の光を灯して見えた 僕はその光景に思わず「おっ!」と唸った
 洋館の灯が湖に映って空を映した真っ黒な水面
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