螺旋階段はもう夏なのさ/虹村 凌
 

何で俺はここにいるんだろう
こんなに疲れてるのに

珈琲も要らないし甘いお菓子も要らない
シャワーもベッドも暖かい抱擁も要らない
もうまっぴらだ
疲れてしゃがみこんで
何してるんだろう

一番下で誰かの足音がする
重い腰を上げてポケットを探る
もうとっくの昔に使えなくなってた合鍵
新聞受けに入れて
やっとさようならだ
ドアの前の二本の吸殻を
吹き抜けに蹴り入れて
新しい煙草に火を付ける
それなのにこの階段は
何だか夏の匂いがするんだ

一段づつ降りていく
夏の匂いが濃くなっていく
どこかで嗅いだ夏の匂い
もう忘れたと思っていたのに
情けないったら
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