佐々宝砂作「よもつしこめになるために」を読んで。/カスラ
 
黄泉の食物は、あなたの「言葉」であり「歌」であるという。この、あなたである男が、どうやら現世にて麗しく美しいであろうひとりの女を、鬼のような黄泉醜女にる変える原因であり、橋の向こう側の同じ場所で出会う約束を取り付けた者であろう。そして、同じく言葉に取り憑かれた者として、ある種類の言葉は命であり、言葉を食べて生きているとは、そんな者たちの偽らざる感嘆と歓喜ともいえる実感である。

その男を私も知っている。男の名は寺山修司と言う。男は「消されたものが存在する」で指示した、その素っ気ない50音で並べられたコトバで、自身の名前を消してみせ、この作者に自身の名前を消させた。

※「消されたものが存在
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