佐々宝砂作「よもつしこめになるために」を読んで。/カスラ
)には戻れないとされ、それらを隔てる境を(黄泉平坂・ヨモツヒラサカ)と呼ぶ。作中「壱」で描かれている、まるで獣脂のような油脂を水面に浮かべる湿原(豊葦原)を、ゆるゆると浮島(天の浮舟)に乗り、主体は黄泉へと向かう。途中、境界(黄泉平坂)を越えなければならないが、この「弐」では神代の時代よりうんと新しい、「橋の伝説」が挟まれている。いわゆる橋の安全を祈願しての人柱として眠る「橋姫」であるが、「櫛を置いてゆく」と描かれているところからみて、この姫も、神話の〈黄泉醜女〉として設定されていることがわかる。主体はその橋を渡り、二度と戻れなくとも自ら〈黄泉戸喫〉することを意志する。そして橋の向こう側は、主体に
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