現象でしかないひかり/水町綜助
蝉か
あれは
森か
深夜二時過ぎの森の黒い輪郭が
曇った夜の空よりも黒くて
狂ったように鳴きじゃくるあぶら蝉の声が
森をどんどん膨らませて振動していた
赤黒い光のようなものが
森を膨張させていたように思う
ぼく以外誰もいない道路は
とても蒸し暑く
ふくれあがりつづける声が
もうすぐそばまで迫ってきているような気がして
ぼくは恐ろしくなり
信号が変わるのを待たずに走り出した
ヘルメットの中でごくりと息を飲み込んだ
*
左耳が通った
*
翌日
ぼくは現象でしかないひかりをみた
喫茶店の中で
エプロンをしたきみが
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