詩集・人生の最中に/生田 稔
 
は夜中まで電話をかける
しんしんと夜は更けて
ぞーぞーと夜は寒い
チンしたカレーを食べながら
「路傍の愛人」という詩を読む
「俺と連れ立つすばらしい少女は
パラソルのエメラルドのなかで燃えていた」とある。

「鯨の死滅する日」

はじめて坂本に父母と共に居を定めた頃
大江健三郎の3冊のエツセイ集が
まだ田舎の小さい三信堂書店に
並べてあつた
中を調べてみたわけではないが
買いたい 買いたいと思いつつ
幾年も過ぎていつた
あるとき お金が入って
その3冊を求めに、急いで歩いた
まだ同じところに3冊とも並んでいた
彼のエツセイなど、この地では
誰も買わないらし
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