『レクイエム・レモン/ひかり』/川村 透
亡霊の君は黒い点になってもうあんなに遠いテトラポッドの上でひとりぽつんと
うずくまる君のペチコートを翻すレモン色のフレア、フレア、フレア
目を閉じて果汁に濡れた君のくちびるを想う
僕を喪服の膝枕で抱き締めながら、君は
夏蜜柑のひとふさを笛のようにくわえ甘皮を剥いて口一杯頬ばりながら
紡錘形の張りつめたひとつぶの果肉をオレンジ色の涙みたいに頬でつぶしてみせて
くぐもった声で「おいひい」と笑った。
太陽には権力の匂いもする
君も兄も僕も果汁もマスカット・グリーン/ブルー・オレンジ/チャコール・レモン
しょんべんみたいに泡立ちて
まざっちまった、かなしみに。
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