連作「歌う川」より その2/岡部淳太郎
やろうか?
祈る人は何のことだかわからず
曖昧にうなずいた
眼の前で流れる川の音を聴きながら
――待っているんだ。
待っている?
いったい何を待っているというのか
祈る人の頭は混乱した
その時 彼の中からすべての歌の旋律も
祈りの言葉も
一瞬だけではあるが 消え失せた
――云っておくが、女だとか、友達だとか、そん
な当たり前のものを待っているんじゃないぞ。
かと云って、ここにぼんやり坐って、ひたす
ら死ぬのを待ちつづけているのでもないぞ。
人を待っているのでも
死を待っているのでもなければ
このみすぼらしい乞食のような男は
何を待っているというのか
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