連作「歌う川」より その2/岡部淳太郎
俺も
待っているのかもしれない
あの男のように
自分でもわからない 何かを
男に教えられた廃屋は
橋からさほど離れていないところにひっそりと
建っていた
ここから橋は見えるが
男の姿はもう 見えない
あるいは橋の下の闇に
まぎれてしまったのかもしれなかった
祈る人は
廃屋の中に入った
廃屋は彼を待ち受けていて
その中は子宮よりも暗く
ずっと
広かった
}
川の書
{引用=
これは、川畔に立つ廃屋で祈る人が見つけた、川について書かれた書物からのほんの抜粋である。
*
川――それは流れるものであり、その流れは上流から下流に向かって不可
[次のページ]
[グループ]
戻る 編 削 Point(6)