眩めく昨日/結城 森士
 
女は初めからいなかった、存在は虚像で言葉は元より幻聴
       に過ぎず、風で翻っていたロングスカートも、白い肌の色や
       笑顔も………あれはしなかった何もしなかったし、僕は何も
       しなかった、何も

(何処からか。彼女が僕を睨んでいる)

遥か遠くで話す知らない男の声は、耳元で囁く
「すぐ後ろの蒼い枯れ木にぶら下っている」
僕の腕は肩より一層の曇り空を反映して重く、(ぶら下がっている、)軽い眩暈を遊びながら、
やがて腕は感覚を無視して痺れと共に上空に消えていく。

(未だに微笑みながら)

かつて七月に夕焼け色の毒で塗られた路上は今では涙に滲
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