燃料切れ/光冨郁也
は風でなびく。灰色の毛のもの。茶色い毛のもの。白い毛のもの。まだらな色の毛のもの。みな一様にやせていて、そして飢えている。駆けること、喰らうこと、そしてしばしの眠りにつくことで、生き延びた彼ら。
一方のわたしは、ダッシュボードを開ける。なにか役にたつものはないか。車のマニュアル本、車検証、ジッポのライター、ティッシュ。地図。足下の赤い発煙筒。ナイフはない。対抗できるものはなかった。しかたなくダッシュボートを閉める、その手に力がはいらない。
もう一度だけ、アクセルを踏むが、車は動かない。拳でクラクションを叩く。その音に、染まる雲は裂けていく。
日が暮れた。風が車の窓にあたる。いつしか
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