燃料切れ/光冨郁也
 
しかハンドルをつかむ手は乾いていた。のどがかわく。狼らは見えない。夜は静かにうずくまる。力なくエンジンのキーをとめ、また回す。なにも変わらない。シートにもたれる身体が重い。顔をあげて、前方を凝視する。気分が悪くなって、手で口をふさぐ。指があごの輪郭をつかむ。無精ひげの感触、寒い。暗い地平には限りがなく、そして夜はいつまでも続く。自分にも聞こえるわたしの吐息。
 窓から見える紺色の空と、影の大地とに挟まれ、わたしは力なく、眠りにつこうとしている。

(この地にひとり取り残されてしまった)
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