春の憂鬱/水町綜助
は川を遡行して来たことになる
赤いTシャツの男はジョギングをしながら
生きている
男は汗みずくで冬が死んだばかりなのに浅黒く
太陽のオレンジにぎらぎらと光りながら生きている
赤いTシャツはもう
襟首から腹にかけて汗にびっしょりと塗れて
川沿いに乱立する、枝ばかりの木々も
大空の血管のようで
命を飛び散らせている
どこへ走っていくっていうんだ
わずかばかりのエネルギーを燃やして
そんなに足を
ふくらはぎを震わせて
腕を
大気を掻き切って
いったいどこへ走っていくっていうんだ
当面の目的のそのもっとも
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