彼の場合/んなこたーない
 
性的な興奮を感じているに違いなかった。
彼の顔に軽蔑の色が浮かんだ。そして彼は正面からまともに女を見つめ、冷ややかな声で話しはじめた。
「ご紹介にあずかりました、わたくし装飾デザイナーのFと申します」

彼がうたた寝から目を覚ますと、妻がキッチンで巨大な段ボール箱を梱包しているその後ろ姿が見えた。
ガムテープとホッチキスを巧みに使い、よほど頑丈にしたいらしかった。
彼は起き上がり、半開きになったリビングの窓を閉めにいった。
いつのまにか風が立ち、あたりからは夜の気配が感じられた。思った以上長く眠っていたに違いなかった。
彼が安楽椅子に戻ってからも、妻は一心不乱に梱包をつづけていた。
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