下敷きになった卵みたいに/カンチェルスキス
 
るぐらいで
 済ませるだけだった
 なるべく目立たないように
 一日の仕事を終えるのが
 彼にとっていちばん重要なことだった
 飲酒の量が増えたことと
 排気ガスや直射日光のせいで
 彼の顔はますますどす黒く
 見る人によっては
 グロテスクになっていった

 

 
 自殺した社長夫婦の夢を
 たびたび見るようになった
 思い出して
 恐怖を覚えるのは
 えぐれた頭部やあふれた血など
 凄惨な現場のことではなく
 二人を抱きかかえたときの
 まだ生温かい
 体温の感触だった
 彼は以前から
 仲間が集まる喫茶店などで
 自殺現場との遭遇を
 好
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