下敷きになった卵みたいに/カンチェルスキス
 
 好んでしゃべっていたが
 もう口にしなくなった
 夢を見るようになってから
 自分の腕や肩口に
 二人の生温かさが
 彼を海底に沈める鉛のように
 重くのしかかった
 なぜだかわからない
 それを振り払うために
 彼はナイフを持ち歩くようになった
 護身用と言うより
 精神を安心させるものとして
 必要だった




 凍結しそうな路上に
 何時間も立ち
 寒さで内臓や細胞までも
 コンクリートになったような重さを
 抱えながら
 彼は警備員の一日を終えた
 仕事の後はいつも
 早く身ぎれいにしたかったから
 近くの公園のトイレで着替え
 自転
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