下敷きになった卵みたいに/カンチェルスキス
あれこれ仕事に注文をつけるのが
社長としては
気に食わなかった
彼はその一週間後
仕事を自分から辞めた
そうすれば精神的な痛手が
やわらぐからだった
彼は自分の車を売り払い
移動手段を自転車に換えた
警備会社に登録し
週に何度か
道路工事や建築現場の前に立った
もともとの声がでかい割に
路上に立ったとき
彼の声は
ほとんど聞き取れないぐらい
小さかった
会社の責任者からは
通行人に必ずひと声
ご迷惑おかけします、と
声をかけるように言われていたが
実際には腕を無造作に振ったり
少し会釈するぐ
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