下敷きになった卵みたいに/カンチェルスキス
 

 あれこれ仕事に注文をつけるのが
 社長としては
 気に食わなかった
 彼はその一週間後
 仕事を自分から辞めた
 そうすれば精神的な痛手が
 やわらぐからだった




 彼は自分の車を売り払い
 移動手段を自転車に換えた
 警備会社に登録し
 週に何度か
 道路工事や建築現場の前に立った
 もともとの声がでかい割に
 路上に立ったとき
 彼の声は
 ほとんど聞き取れないぐらい
 小さかった
 会社の責任者からは
 通行人に必ずひと声
 ご迷惑おかけします、と
 声をかけるように言われていたが
 実際には腕を無造作に振ったり
 少し会釈するぐ
[次のページ]
戻る   Point(9)