空の巣/水町綜助
に入るところだった。知らないうちに僕は前に進んでいたのだった。
そのとき、唐突に、僕の世界を認識する、「それのしかた」は変わった。
それは、視点が変わっただとか、意識が変わっただとか言うものではなく、強いて言葉にして言うのであれば(それすらも確かにそれを言い当てているとは言えないが)、「世界を見る器、人間と言い換えてもいい、それ自体がすっかりすげかわった」というものだったろうか。
しかし、劇的な変化であるにも拘わらず、それが「恐い」だとか、「嬉しい」だとか、そういった感慨は皆無なのだった。
僕は騒々しくドアを閉め、小走りにやってきた母に微笑んで、その手に引かれていつもと変わらず停留所ま
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