空の巣/水町綜助
僕にとってはこれは「あたりまえ」のことなのだ。
僕の意識は次第に甘い膜に包まれ始めた。
「歯軋りはするな」
運転手が前を向いたままそう言ったような気がした。ひどく鬱陶しそうに。定かではないが、それでもいいのだ。
「そんな癖は、たぶん、ないよ」
そう答えたような気もしたが、なにも答えず無言のままだったような気もする。
もう僕は泥に沈みかけている。
僕は眠った。
幼稚園に登園する、ある朝だった。
僕は迎えのバスの停まる、決められた停留所まで、僕を送ってくれる母を、一足先に家の外に出て待っていた。
家の外壁に沿って敷いてある、粗末な鉄板の隙間から、クローバ
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