Nobember Tales./芳賀梨花子
 
を旅して
南十字星を見ない人は
近くのものを望遠鏡で見ているのと同じ
そんな人になにも言うことはないけれど
なにかを信じるということは
悪いことではないと思うよ
だからといって
簡単に騙されるほうも悪いの
ほら、赤い星がひとつ
もうすぐ明日に消えていく
貴方にはあって
私は失うかもしれない
明日
もしも明日が血潮となって
私の中をめぐるのならば
なにもかもを浄化して
貴方のために星になるだろう
そして貴方は泣くだろう
だから私は何も話せずに
阿古屋貝のように小さな粒を秘めて
育てていく
やがて貴方のてのひらで
ころんと丸くなって
しばらくしたら眠くなっ
[次のページ]
戻る   Point(9)