R/芳賀梨花子
父さんの車にはいつも赤いタータンチェックのラグが入っていて、私はそれが好きだった。たとえ、車を乗り換えたとしても、そのラグだけはいつも車の後部座席においてあった。小さい頃、このラグに包まって眠ってしまって、目覚めたときにはラグに包まれたままベッドにいた。ありがとう。素直に言えたのはあの頃だけだったのかもしれない。寒い夜、時々、そのラグを引っ張り出しては、お父さんの残り香を探す。でも、私は時間という螺子を回し続けてしまったのだ。無性に誰かと話したくなって、ラグに包まったまま電話をかける。
Reason
私という人間は、いつも誰かを責め立てて理由を聞き出したくて、でも、誰も答えてくれなくて
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