R/芳賀梨花子
 
くて。悲しそうなお父さんの顔、薄暗闇に消ることもできない、曖昧な笑顔。冬の湖面のように私が静まっていくまで、そのままでいて。でもママはそんな私が嫌で、死ぬ間際は私が娘だって言うことすら忘れ、日々、弱っていく母を見続けている私、薄暗闇の顔。Reasonのアール。これは私が自分自身に名づけた名前のイニシャル。最後の名前。

だから、お父さんは勝手に骨になって、勝手に石になってしまった。石に会いに行ってもちっとも話してくれない。でも、冷たい雨の日に百貨店の正面玄関で雨宿りをする人並みをすり抜けようとしたら、RainのR、あなたがつけてくれた名前で呼び止められた。お父さん。私はあたりを見回して、でも、あなたはいなくて、それから、Riverのアール、Roseのアール、Rubbyのアール、Ragのアールと呼び止められたびに私は最後の名前を振り払えずにいる自分を知る。このままずっとヒースの荒野にさえ解き放てずに、あなたに似た男を捜し彷徨う。激しい風はあなたにつけてもらった名前を奪おうとして、だから私は必死に歩く、歩き続けるあてもない旅路を。



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