すすき野原で見た狐の話/板谷みきょう
夕陽は、すっかり沈んでしまっていました。
野原の色は、夜の灰色にゆっくりと溶けていきます。
男は徳利を傾け、ふらふらと細い道を歩いていました。
酒に酔い、肴を楽しむつもりも忘れ、ただ夜の草の匂いを胸に吸い込みます。
ふと顔を上げると、すすきの茂みに一つの影が揺れていました。
頭に小さな木の葉を乗せ、前転、後転を繰り返す狐。
耳や尻尾はまだ隠れず、人の姿になろうとしては、すぐに元の獣の姿に戻ります。
その舞いは、誰からも見られてはならない、知られてはいけない、
狐の心に秘められた、真剣な姿でした。
狐は少し前、村祭りの後の神社の社の地面に落ちていた、
紅色の漆塗りの簪をそ
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