メモ/はるな
 
はっきりと覚えていることがある。
むすめを連れてはじめて産院をでたとき、すこし肌寒かったこと。うちについたら宝籤が神妙な面持ちで尻尾をおろして出迎えたくれたこと。毎年見事に咲くモッコウバラが、もうほとんど散ってしまっていたこと。はじめてむすめの爪を切るときに、こんなにうすくてきれいなものが、この世にあるのだと感心したこと。

ぼんやりと覚えていることもある。
通っていた幼稚園の裏庭は隣にある小学校とくっついていて、どくだみが茂っていたこと。水飲み場のまえで、ひとつ上の男児に指をさされて笑われたこと。”えんちょうせんせい”は四角い大きなめがねをかけていて、とてもやさしかったこと。どの子よりも
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