横木さんの本を読んで、やさしい気持ちになった。/田中宏輔
去年の秋のことだ。
老婆がひとり、道の上を這っていた。
身体の具合が悪くて、倒れでもしたのかと思って
ぼくは、仕事帰りの疲れた足を急がせて駆け寄った。
老婆は、自分の家の前に散らばった落ち葉を拾い集めていた。
一枚、一枚、大切そうに、それはもう、大切そうに
掌の中に、拾った葉っぱを仕舞いながら。
とても静かな、その落ち着いた様子を目にすると、
ぼくは黙って、通り過ぎて行くことしかできなかった。
通り過ぎて行きながら、ぼくは考えていた。
いま、あの老婆の家には、だれもいないのか、
だれかいても、あの老婆のことに気がつかないのか、
気づいていても、ほっぽらかしているのか、と。
[次のページ]
戻る 編 削 Point(17)