2005 02/02 20:22
いとう
*** 鈍器のようなもの ***
春は、鈍器のようなもの。やうやう白くなりゆく顔色、少し明りて、紫だちたる血痕の、
細くたなびきたる。
夏は、鈍器のようなもの。月の頃は、さらなり。闇もなほ。血の多く飛び違ひたる、ま
た、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くも、をかし。雨など降るも、をかし。
秋は、鈍器のようなもの。夕日のさして、山の端いと近うなりたるに、血のしたたる人
の、寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど、飛び急ぐさへ、あはれなり。まい
て、野次馬などの列ねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、パトカ
ーの音、救急車の音など、はたいふべきにあらず。
冬は、鈍器のようなもの。雪の降りたるは、いふべきにもあらず。霜のいと白きも。ま
た、さらでもいと寒きに、血糊など急ぎ熾して、手に持て渡るも、いとつきづきし。昼に
なりて、温く緩びもていけば、返り血も、黒き墨がちになりて、わろし。