日差し
吉岡ペペロ



中世ペストの流行によって

この街の人口の1/3から半分が亡くなったのだそうだ

日差しに照らされていると疲れてくる

だから建物の影をさがして散策する

さすがビールの国だ

通りすぎる女の子たちがアイスクリームを持つように

金色の入ったプラスチックカップを片手に歩いている

市庁舎のまえで地図を広げる

+印がたくさん目についたから教会をまわってみようと思う

ひとつ目にはいる

固くて重い扉をひっぱるように開ける

ふたつ目にはいる

石埃の香りがひんやりと包んでくる

みっつ目にはいる

どの長椅子に座ろうかなって歩を進める

よっつ目にはいる

きらびやかな装飾が歳月に汚れている

いつつ目にはいる

静かな湿り気のなかで遠くを祈る

むっつ目にはいる

人生は曇りや雨のときにばかり祈るのではない

ななつ目にはいる

まだなにもない場所にむかって祈る

気づいてはいたのだが

よっつ目くらいからひとに付けられていた

夢から醒めたようになってななつ目を出たとき

背の高い男の人に話しかけられた

私はロシア人だ、この教会には毎日来てるんだ、一緒に食事でもどうだ、

優しい気持ちになっていた

哀しい気持ちになっていた

わたしは日本人だ、わたしは仏教徒なんだ、

日差しがふたりを照らしていた


携帯写真+詩 日差し Copyright 吉岡ペペロ 2012-05-01 16:59:02
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