記憶のかけら
あずみの

あなたが好きだったアーティスト
なんだか鼻について嫌いだったわ

あなたが好きだった作家
なんだか生き様が嫌で好きになれなかったわ

あなたが好きだった食べ物
なんだか食感が妙でおいしくなかったわ

天邪鬼なわたしはそうやって
あなたと違うことを強調することで
ひとりの人間として見てもらおうと
きっと必死にもがいていたの

そんなわたしをあなたは
何も言わずにただ
優しい目で見守ってくれていたわ
幼いわたしにはそれさえも苛立ちだったけれど

でも不思議ね
嫌いだったアーティストも作家も食べ物も
自分が好きなものよりずっとずっと強く
こんなにもはっきり覚えているのだもの

ふと目にしてはそのたびに
あなたを思い出して
あなたといた自分を思い出して
懐かしさと寂しさに軋んだ胸の
痛みは気付かなかった振り

あなたはもういないけれど
嫌う理由ももうないのだけれど
それでもやっぱりどうしても
そのアーティストも
あの作家も
この食べ物も
好きにはなれない天邪鬼なわたし

今でもあなたはそんなわたしを
あのときのような優しい目で
どこかで見守っているのでしょう


自由詩 記憶のかけら Copyright あずみの 2007-06-07 12:34:04
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