荒野抄震/木立 悟
 




水の上 空の上の透明な切り口
目覚めたけだものを貫く緑
流れに裂かれ
岩から離れた水草
魂のはじまり


朱を知る虫も空に少なく
毒蛇の地も細かく分けられてしまった
水錆と祈りの雨
手のひらの血を洗い
恵みを残さぬ雨
空気の紋を途切れさせながら


秋を掴む手が
森の上の空を廻る
今はいない生きものの巣
午後を継なぐ道
音だけの風と
何も持たない土を染め
灰は灰のためだけに渦まいてゆく


億の雨粒のなかを
虹になれない光が透り
動かないもののための道なき道
朽ちた木々にからみつく
光が闇になる角度から
幾つもの午後を貫いて
声のように落ちるように
空は手のひらに訪れる










   グループ"四文字熟語"
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