熱射病/はらだまさる
 
言われてぼくは坂本九の「上を向いて歩こう」を下手なりに一生懸命歌った。それはブッダガヤの夕焼けに溶けるように消えてしまったけれど、すごく気持ちが良かった。その場の空気が、とても温かかったのだけを憶えている。それを感じたぼくは、歌いながら知らず知らずのうちに泣いていた。歌手が歌をうたうことをやめられない理由が、少しわかった。

                      汽車は毎朝、ガヤ駅から出発している。ラカンさんの部屋の壁にはある有名な時計職人の写真が飾ってあった。ダラムシャーラーに居る人だ。ラカンさんは神さまを信じないけど、彼のことを自分の次くらいには認めていたようだ。そんな彼が京都の精華
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