熱射病/はらだまさる
、そのうちの一人、ランブーという男が話しかけてきた。ぼくはこの旅で、娯楽を娯楽として楽しめない人間はきっと簡単に殺されるだろう、と思った。世界各国、色んな土地で鳴き続けている蛙の、ときに美しく、ときに珍しい歌声は録音されてマニアのあいだで高値で売り買いされている。それでいいのだ。ただ、ぼくがランブーに届けたいのは、決して蛙の歌声ではない。宗教の正しさでも、聖人君子や偉人哲人のようなすばらしいおことばでもない。娯楽として、また芸術として広く愛される日本の唱歌だ。馬鹿でかいチロムを廻しながら、誰もが簡単に歌える歌だ。ランブーが土産にくれたお茶の葉は、インドで飲んだどんな飲み物よりも旨かった。
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