名はない、それでいい/たりぽん(大理 奔)
誰にもおそわらないのに
赤を「あか」と感じたり
風を「かぜ」と感じたり
誰も教えてくれないことが多すぎる
生まれてきたのだ、ということも
きっとそうだ
記憶を移しただけで
生まれるものがあるだろうか
あいつを「きらい」と感じたり
あなたを「すき」と感じたり
それは記憶ではないから
その瞬間の手触りを
だれにも記録させない
誰にもおそわらなかったから
誰にも教えない秘密
この温もりと孤独
私という果実は
ひっそりと地面で潰されて
だれかが
「あか」といったり
「あお」といったり
するのだろう
誰も知らなくても
また、葡萄であるように
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