おまん瞑目(おまんとくれは、その壱)/佐々宝砂
 



  おまんは月夜の雪道を駈けてゐた。
  修験(しゅげん)の筋に生を受ければこそ、
  雪の冷たさも山の闇も苦ではなかつた。
  おまん駈ければ一夜に五十里と唄はれた、
  その素晴らしく逞しい脚でおまんは駈けた。
  しかしおまんは口惜(くや)し涙に泣いてゐた。
  泣きながら駈けてゐた。

  神のましますお山に入つてはならぬと、
  禁じられたのが口惜しかつたのだ。

  神の声を聴くのは女ではなかつたか。
  神の姿を見るのは女ではなかつたか。

  木の皮剥ぎ取る鹿(しし)よ退(の)け、
  木の根掘り出す猪(しし)よ退(の)け、
  そそのけ、
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