回遊する少女 (アオウミガメ)/佐野権太
 
  あなた、アオウミガメの背中を
  匂ったことはあって?
少女は
さして、答えを求めるふうでもなく
空と海の継ぎめを見つめたまま
潮風にふくらんだ髪を
そっと抑える
  耳をあてると
  海の流れる匂いがするわ
  目はつむってなけりゃあ、だめよ
  甲羅の内側には
  深紫(ふかむらさき)の宇宙が広がっているの
  とても淋しくて、でも
  とても、あたたかい
  ずっと旅をしてきたの
  百年? 二百年?
  ううん、たぶん
  千年とか、二千年とか
  それは、気の遠くなるくらい
  永い年月(としつき)
  使命
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