なにものでもないもの あなた 息の果て/木立 悟
いつのまにかあなたがどんな顔をしていたのか忘れてしまった
生きている瞳と
死んでいた頬以外
忘れてしまった
時折あなたを追ってきた風が戸を鳴らすと
あなたの胸は少しだけ上を向く
風の音があたりを飛び交い
あなたは動かず
わたしは動けず
立ち上がったままのすがたで
じっと じっと
まばたきもできずに
満ちてくるものすべてを聴こうとする
天井を手でおさえ
あなたの足が指している壁に向かい
誰が背に触れにくるのか
あとどのくらい経ったら溺死するのか
おびえたままで立ちつづける
昨日と同じように
明日も同じように
この不思議なにおいのする暗闇のなかで
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