夜、幽霊がすべっていった……/岡部淳太郎
きたためしがないのに)
もうすぐ夜が明けて
(そこに疑問の余地はない)
朝刊のざわめき
(落ちた魔術)
牛乳のさざめき
(割れた血)
彼 あるいは彼女は
(こうしてふわふわと立っていて)
もう溶けなければならない
(それからすべる)
逃げるのではなく
(それからすべる)
光の中に吸収されて見えなくなるのだ
(どこでもないいまここへ向かってすうっと)
幽霊の時間は終る
(すべてはすべるそして僕も)
それまでは息苦しい闇の中で
静かだ
(すべっていった……)
人間はすべらない
ただ
歩くだけだ
連作「夜、幽霊がすべっていった……」
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