夜、幽霊がすべっていった……/岡部淳太郎
 
きたためしがないのに)
もうすぐ夜が明けて
   (そこに疑問の余地はない)
朝刊のざわめき
   (落ちた魔術)
牛乳のさざめき
   (割れた血)
彼 あるいは彼女は
   (こうしてふわふわと立っていて)
もう溶けなければならない
   (それからすべる)
逃げるのではなく
   (それからすべる)
光の中に吸収されて見えなくなるのだ
   (どこでもないいまここへ向かってすうっと)
幽霊の時間は終る
   (すべてはすべるそして僕も)
それまでは息苦しい闇の中で
静かだ
   (すべっていった……)

人間はすべらない
ただ
歩くだけだ



連作「夜、幽霊がすべっていった……」

   グループ"夜、幽霊がすべっていった……"
   Point(9)