ノート(かたむき)/木立 悟
 





暮れのこがねの海岸に
こがねに染まった猿がいて
石穴に石を通そうとしている


街中にはりめぐらされた
ロープウェイの鉄線を
無人のトロッコが走りつづける


   泣いていると思ったのだ
   君が 泣いていると思ったのだ
   だが 泣いているのは
   自分だけだった


五分おきに見る淵が
街を二重に縛るとき
片方の肩にだけ来る猫が
背中の熱に気づくとき


   帰っていった
   皆 帰っていった
   置き去りの泪が砂浜に
   蝶の足跡のようにまたたいていた


火打石を貸したら戻らぬ午後に
あちこちで夏が黄昏てゆく
街灯から街灯へ
羽と耳は伝わってゆく















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