ノート(午後と柱)/木立 悟
階段にしずくの傷がつらなり
あせた光を流している
そのうちのいくつかが
私とともに上へあがる
雲から水が去ったばかりで
手のひらと屋根は渇いている
空の風より強い風が
またたきの奥に沈んでいる
ざらついた片耳
はらはらとざわめき
しずくの行方
火照りの行方を聴いている
ふたつ去り
ひとつ来る
減りつづけるものを見つめる鏡
無言のまま雲に満ちてゆく
まるみを帯びた影と三角
ふるえとはざま したたりの色
ともに居た光はいつか離れ
音だけが階段をおりてゆく
数え切れない柱があり
数え終えたものから空になった
めぐるもの歩むものたたずむもの
私はそのどれでもなかった
ちぎれた空が道をすぎ
水たまりの上で人になり
すべての透明な境いめに立ち
あたたかくあたたかく身をそらす
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