ノート(夜のうた)/木立 悟
さかさまの本には
さかさまがたくさん書かれていて
さかさまに読むのに適している
でも目はひとつしかないので
ときどきふたつになるときだけ読む
そのほうがもっとぐるぐるするから
手をつなぐ
枝と手をつなぐ
道と手をつなぐ
つらなりならぶ
にこやかなもの
白と黒しか
色がない
でも 手をつなぐ
もようともようのあいだのもよう
ゆったりとした衣を着た子
森のなかをすぎるうた
ふたつのしずくが照らすうた
夜と夜のあいだのうた
向こうのあかりはほんとうにあかりか
色はずっと鳴りつづけている
汗をかかない夜のかたち
足をのばせば切られるかたち
ふたつの異なるうたが進んで
一瞬ならんですれちがう
ふたつのうちのひとつが気づいて
名前も知らずに呼びかける
遠く遠く呼びかける
立ち上がると生まれるもの
すぐに消えてしまうもの
許されない子も許された子も
ゆったりたなびく二枚の衣
こぼれるうたをつかまえる
こぼれる笑みでつかまえる
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