記憶/アンテ
 
いあいだHCUに入院したことも
退院したあともずっと
ぼくのお見舞いに来てくれていたことも
みんな
聞かされた話だ

ぼくの記憶じゃない

怖いこと
が思いつかないのは
ぼくの頭のなかが
おかしくなったせいだろうか

引き出しの在処さえ見つかれば
わたしが鍵を壊してあげるのに
そう言うときの彼女の目は
とても真剣だ
本当に斧でも持ってきそうな様相で
そんな時
ぼくが記憶とともになくしてしまったものを
取りもどさなければ
彼女がずっと苦しむと思うのに
なにをすればいいのかわからない

怖いこと
そう
退院すること
もう大丈夫だと言われること

なーんだ
けっこうあるじゃない
と彼女は笑うだろうか

怖いこと

もう一度
彼女のことを忘れてしまうこと


                 連詩「メリーゴーラウンド」 5




   グループ"メリーゴーラウンド"
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