『微笑む肖像』/ハァモニィベル
クションにかけらた時も、なお
その魅惑によって、誰もが振り返るほどの飛びぬけた落札額を叩き出した。
そして購入には短期間の一般公開が義務付けられた
その男が、彼女を奪ったのはそのときだ。
1876年5月の夜であった。
それから、二十五年間、片時も離れずに
彼は、彼女と過ごしたという。旅行の時も、二重底の鞄の下に入れ、
寝るときも、マットレスの間に挟んで伴に眠った。
警察に追われ、窮地に陥ったときもあった
カネに困ってどうしようもないときもあった
そんなとき、同業者は誘いの水を向けてくる
だが、その肖像画だけは、
どんな時でも頑として、守り続けた。
やがて年老いて、
ピンカートンの探偵たちに追いつめられるまで
どんな時も、彼と共にいた美貌の公爵夫人は、後世
1997年パリで謎の死をとげる元英国皇太子妃を子孫にもつことになった。
そして、
高値に咲いた肖像画を愛し続けたあの男は、
シャーロックホームズの宿敵、モリアーティー教授のモデルになった。
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