美しいこと/はるな
 


向かいの屋根の瓦にはまだすこし雪が残っている。祖母の家から預かっている蘭の葉が黄ばみはじめた。髪の先だけを少し赤く染めて、わたしは座っている。
選ぶことがすごく苦手だった。どうやって選んできたのかがよくわからない。何も選んでこなかったのかもしれない。季節になでまわされて、記憶だけがだんだん埃をかぶっていくようだ。

春から明石に住むことに決めた。それは、わたしが選んで決めた。
大事なひとと住むのだ。ふたりで。

なんにもいらないと思っていた。幼くて、足も腕も細くて、目は飢えて、乾いて。たぶんほとんどのものを憎んでいた。自分のことはもっと憎んでいた。身体も、かたちも、意思も、意識
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