批評祭参加作品■〈日常〉へたどりつくための彷徨 ??坂井信夫『〈日常〉へ』について/岡部淳太郎
 
存在なのかもしれない。いまや圧倒的多数になってしまった犀の群れを鎮めようと、釘男が現れる。だが、彼の力も無力であり、犀を押しとどめることは出来ない。釘男は〈日常〉と〈非日常〉との境界に立ち、その両方を必要とする。そして、話者もまたそうであるだろう。だが、犀は〈日常〉の中にしか住んでいない。彼等は〈日常〉に入り切ることの出来ない話者を尻目に、〈日常〉から〈日常〉へと移動する。あとには、疑うことを知らない〈日常〉が通りすぎていった後の残骸が残されているだけだ。
 結局、この詩集は何を語っていたのか? おそらくそれは明示できることではないし、明示するべきことでもないのだろう。ただ、孤独をまとった話者が
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   グループ"第3回批評祭参加作品"
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