ラプンツェル/愛心
。
彼女は変わらず。歌うのです。
彼女の視界にはきっと、彼女の世界が広がっていて。
それが、全てなのでしょう。
一度だけ、僕は彼女の、
ぽつり、呟きを耳にしました。
『待ってるの』
歌声とかけ離れた、蚊の鳴くような声で。
思わず顔を仰視した僕には、彼女の瞳がいつもより、心なしか濡れていたように思いました。
その時初めて。
彼女が歌うものに、幸せな詩がないことに気づきました。
僕は彼女を見つめました。
言葉の礫と、囃す声。
なにも、感じない。聞こえない。
そして、気づいたのです。
彼女の目の端が赤いことに
[次のページ]
前 次 グループ"もう一つの夢物語"
編 削 Point(5)