ラプンツェル/愛心
 


彼女は変わらず。歌うのです。

彼女の視界にはきっと、彼女の世界が広がっていて。
それが、全てなのでしょう。

一度だけ、僕は彼女の、
ぽつり、呟きを耳にしました。

『待ってるの』

歌声とかけ離れた、蚊の鳴くような声で。

思わず顔を仰視した僕には、彼女の瞳がいつもより、心なしか濡れていたように思いました。

その時初めて。

彼女が歌うものに、幸せな詩がないことに気づきました。

僕は彼女を見つめました。

言葉の礫と、囃す声。
なにも、感じない。聞こえない。
そして、気づいたのです。

彼女の目の端が赤いことに
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