ハグロトンボ(百蟲譜28)/
佐々宝砂
真夏の渓谷の薄暗い木陰で
川音を聞きながら
ひっそり息をしていた
ひとりといっぴき
濡れた岩のうえ
つんとまっすぐに伸びた胴
行儀よく揃えて閉じた翅
その黒曜石の輝き
日の当たる深い淵で
友人たちは遊んでいた
行かなくてはならなかった
黒曜石は驚いて飛び去った
私はそうっと立ち上がったのに
ほんとにそうっと立ち上がったのに
(未完詩集『百蟲譜』より)
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